キスされた。
受動態である。
ちなみに現在進行形。
あ、離れた。
すぐにグレイは赤くなった顔を隠すように帽子を深く被り、走り去ってしまった。
残されたクレアは唇に残された感触を思い出しながらも、友人との約束を果たすために彼とは逆方向の酒場へ向かう。
「ねえカレン」
お酒は二十歳になってから。
まだぎりぎり未成年であるクレアの飲み物はオレンジジュースだ。
「グレイって私に惚れてるのかな?」
カレンはなにも言わない。ただなるべく無表情を装いながらワインを口に運んでいる。
「なんか友情としては違う気がするのよ。普通友達同士でもあんなことしないはずだし」
「……あんたも鈍いよね」
「え? なにが?」
「普通そんなことされたら分かるでしょ?」
「……ごめん」
「……謝るってことは分かってないわけね」
こくりと頷く。
カレンはため息をつく。
「グレイは、クレアのこと――」
ガタンと席を立つ音。
そこに座っていたのが誰か、見なくても分かる。
その気配はまっすぐ宿屋の外へと出て行った。
カレンは申し訳なさそうにドアを見つめる。
「……そういやあの子もグレイのこと、好きだったっけ」